宇宙の終焉はどうなる シナリオをメカニズムと共に3つ紹介

かつては「宇宙の構造は基本的に変化しない」と思われていました。しかし、およそ100年前に天文学者のハッブルが距離に比例して銀河が遠ざかっていく「ハッブルの法則」を発見し、宇宙が膨張していることが確認されました。

宇宙が膨張しているということは、宇宙の始まりと終わりがあるのではないかと研究者は考えました。その後始まりに関してはハッブルの法則が発見される以前から主張されていたビッグバン仮説が定説となりましたが、終わりに関しては未だ研究者の中でも説が割れています。

今回は研究者の考える宇宙の終わりのシナリオを3つ紹介したいと思います。

ビッグクランチ


今現在宇宙は膨張を続けていますが、これがある時重力によって膨張から収縮に転じて、無次元の特異点に収束するのではないかという仮説です。

ちなみに、ビッグバンとビッグクランチを繰り返す振動宇宙論というものも存在します。

ビッグリップ


ビッグリップ仮説は宇宙が膨張しすぎてすべての物理的構造がバラバラになり、素粒子がお互い遠ざかるだけになるという仮説です。

ビッグフリーズ


ビッグフリーズ仮説は、宇宙が膨張して星々の間の距離が広がりブラックホールが増加、そのブラックホールも最後はすべてホーキング放射によって蒸発し、ほぼ絶対零度の世界になるという仮説です。

宇宙の終焉を左右するのは・・・


ここまで3つの説を提示しましたが、宇宙の結末を左右する要素を紹介します。

その要素とは宇宙定数とダークエネルギーです。ここで一つの式を提示します。


簡単に説明すると、この式は宇宙膨張の加速度を表す式です。通常の物質ではエネルギー密度ローも圧力pも正の値になると考えられているので、マイナスがついている右辺第一項は宇宙を縮小させようとする力が働きます。逆に右辺第2項は宇宙定数ラムダが正であればプラスになるので、宇宙を膨張させようとする力が働くことになります。

もし宇宙定数が負であれば宇宙の膨張は減速し、いずれ収縮を始めて最後は潰れてしまいます。

宇宙定数が正の場合はいくつかのパターンに分けられます。宇宙があまり大きくない段階では右辺第1項が右辺第2項より大きく、膨張は減速しています。ここで宇宙定数の値が小さいと宇宙定数の効果を発揮する前に減速膨張が収縮に転じてしまい、最後は潰れてしまいます。これが先ほど紹介したビッグクランチです。

宇宙定数の値が大きい場合は右辺第1項が小さくなり、右辺第2項が大きくなります。これは宇宙の膨張が減速膨張から加速膨張に切り替わったことを意味し、指数関数的に宇宙は膨張します。この宇宙をドジッター宇宙と呼びます。

また、論理的には右辺第1項と右辺第2項がつり合い、かのアインシュタインが唱えた静止宇宙解に落ち着く可能性もあります。ただし、これは宇宙の膨張速度がきわめて正確に微調整されていないと実現しない、非現実的な解です。

では、実際のところ宇宙定数の値はいくつになるのか。1998年にハイゼット超新星探索チームを中心とする研究グループが宇宙は加速膨張していることを発見します。(ちなみに2011年にノーベル物理学賞を受賞しています)

加速膨張が発見されたことにより細かい理論は省略しますが、宇宙定数は正の値を持つことがわかってきました。

宇宙定数が正であるということですが、観測を説明する宇宙定数の値はあまりにも小さいので、背後に謎の物質があるのではないかと考えられました。これがいわゆるダークエネルギーです。

宇宙定数もダークエネルギーの一種ですが、ダークエネルギーは宇宙を加速膨張させるものを指します。

ここで、先ほどの式を思い出しましょう。宇宙は加速膨張するということは右辺第1項が正になる必要が出てくるので、


という条件を満たしていなければなりません。通常の物質ではエネルギー密度も圧力も正ですが、この条件はエネルギー密度と圧力が逆符号になるということを意味します。これは体積が膨張しても密度が薄まらないという謎の性質を持ちます。

ここで、状態方程式パラメータを以下のように定義します。


宇宙が加速膨張するとしたら、先ほどの条件式より、w<-1/3を満たしていなければなりません。

宇宙定数は確かに条件を満たしますが、w=-1からずれているのであればダークエネルギーが何らかの影響を与えていることになります。wが-1よりも大きければ加速は緩やかなものになります。これはビッグフリーズになります。一方で、wが-1より小さければ宇宙の加速膨張が大きくなりすぎていずれ物質はバラバラに分解されます。これがまさにビッグリップと言われるシナリオです。

ここまで見てきたように、宇宙の終焉を左右しているのは謎の物質・ダークエネルギーということができます。

現在は加速膨張が進んでいるので、ビッグクランチよりもビッグリップ・ビッグフリーズの可能性の方が高いと考えられていますが、未だ宇宙の終焉がどうなるかはわかっていません。


天文学辞典:ビッグリップ より

参考

新天文学辞典 谷口義明 講談社 2013

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